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NUU “うまれてきたから” インタビュー

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いま新しいアルバムが完成して、皆さんに聴いてもらう、いまの心境を教えてください。
前のアルバム(『つんつん つるんぶ つるんぶ つるん』)を出してからいろんな計画を練っていたんですけど、子供が生まれたりしまして。そんな生活のなかで1年に1曲ぐらいのペースで新曲が生まれていきました。いろんな場所でライヴをやっていくなかで、新曲です、って紹介すると、〈それ4年ぐらい前から聴いてます〉って言わるようになったりしたんです(笑)。で、2016年1月か2月ぐらいだったかな。これまでいっしょにアルバムを作ってきた笹子重治さんに、アルバムを作るのでお願いしま~すって声をかけて、そこからひとりがふたりになり、という感じで参加者が増えていき、アルバムが出来上がっていったんです。もう何年もいっしょに唄ってきた曲がやっとCDになりましたよ~って家族や仲間たちに伝えたい気分です。
ごはんができたよ~とお知らせするような感じ?
そう。アルバムを出すことには、これまでお世話になったみんなにお届けする、というのに加えて、はじめましてNUUです、と挨拶するというふたつの柱があります。ラジオ関係者とかアルバムをつうじて、いままた新たな出会いが生まれているんです。
振り返ってみて、この8年間って単純に長かったですか?
子供がふたり生まれて、そして私の父が亡くなり、人生におけるおおごとがいろいろ起きた8年だったので長かったように感じますね。その間に、東日本大震災が発生し、原発事故も起きましたからね。原発事故の前にできた曲をいま録音してみると、もしかするとこの歌詞はこんな意味を持っていたのかも、って気付かされることもありました。人間の生き死に直面したことで、改めて別の意味を発見して感慨深く思ったりして。
〈おおごと〉と言われる出来事の前後で歌詞の意味が違ってみえた、ということですが、当然唄い方にも変化が及んでいたりするんでしょうね。
そうですね。妊娠前と後ではさまざま意識の変化が起きていますから。例えば、自由という感覚の違い。日常に即して話すと、ひとりのときはお腹が空いたからコンビニに買い物に行くことに何かを感じることなんてありもしなかった。だけどいまは、子供ふたりを主人に預けてアイスを買いに行くとき、自由だぁ!って叫びたくなるような開放感がある(笑)。そんな一瞬の捉え方の変化が歌にすごく影響しているように思います。ライヴをやる際のコンディションの整え方も当然変わったし、いざ唄うぞ、となったときに解き放たれる感覚が以前よりも強くなりました。
日常のささやかな幸せを唄った曲がたくさんありますが、いまはそのことをより実感しながら唄っているんですね。
ライヴをやること、レコーディングができることへのありがたみはかなり増しましたね。でも最近はふたつのしあわせがあると思います。子供がいること、子供がいないこと、どちらにもしあわせはあって、それぞれが抱く悲しみや不自由さも同時に考えるようになった。そうなると、善悪の概念だってさまざまな状況や立場によって変化するんだと考えたりするようにもなり……。
複眼的なものの見方をするようになったってこと?
はい。だから自分が過去に書いた曲の受け止め方もいろいろと変わっていったことが驚きでしたね。実際に子供が生まれてから改めて唄ってみたら、すごい曲だぁ~(泣)って自分で感動したりして(笑)。
このアルバムを聴いていると、いろんな〈輪っか〉が見えてくるんです。人の〈生き死に〉がイメージさせる〈円〉だったり、しあわせな家族の風景が想起させる〈和〉だったり、いろんな丸があちこちに散らばっている。青い空が目に浮かぶ上天気な曲が並ぶなか、主人公が夜ふけにぼんやりと空を見つめているような“貝と花”があったりして、日々の暮らしに沸き起こる明暗がしっかりと描かれているところもそういう印象につながっていて。
うんうん。わりと楽しげな曲が印象に残りやすいからか、ハッピーだね、と言われがちなんですが、どういう曲を唄っているんですか?って訊かれても説明が難しくて。ライヴを観てくれたお客さんのなかにも、NUUちゃんのように生きられたらしあわせでしょうね、とか言われることもあるし。でも、いままで発表したアルバムにもそうではない部分を多く残してきたつもりだし、今回もその点はすごく大事にしています。ハッピーでポップなところだけじゃなく、ドロドロしたエグイ部分はどうしても出てきてしまう。そういう曲の場合は、声を張らずにボソボソと呟くような歌を録ったところもあったんですよね。空、星、イェ~イ!みたいなのじゃなくて(笑)。
でも“台所オーケストラ”のような〈みんなのうた〉的なナンバーはNUUさんらしくて楽しい。こういった愉快な曲ってお子さんの反応はどうなんですか?
すぐにおぼえて唄ってましたね。ただ、6歳の娘は意外と“して”がお気に入りだったりする。〈もういちどして~〉とか英語ふうに唄ったりするんです。周りはみんなドキッですよ(笑)。こないだふと思ったんですが、娘が思春期になったとき、お母さんがこんな歌を唄っていたら超キモチ悪いだろうなって(笑)。

娘は私のライヴにもよく来るんですけど、曲を聴いて泣いていたりしますよ。どうしたの?って訊くと〈お母さんの歌がすごくいいから、涙が出てきちゃったの〉って。家で聴いているときは、部屋の隅っこで泣いていたりする。声をかけると〈胸が痛くなるの〉って。
すごく感受性豊かなんですね。NUUさんも小さい頃ってお姉ちゃんみたいなタイプの子供だったりしました?
歌うのが大好きという点では、そういうタイプでした。小学1、2年の頃から自分で曲を書いてたんですが、男女のロマンスについての描いた内容だったんですね。それを聴いた母親が〈ギョッとした〉と言ってました。
間違いなく血筋ですね。続いて参加メンバーについてお伺いしたんですが、今回アルバム制作で初めて組んだミュージシャンは?
おおはた雄一さん、TRI4THの皆さん、芳垣安洋さんなど。良原リエさんとはよく会ってたんですが、レコーディングは初めてですね。
おおはたさんとの出会いは?
今回、男性とのデュエットをどうしても録りたかったんです。そこで笹子さんに相談したところ、おおはたくんがいいよ、ってことで紹介してもらって。彼が曲を書き、私が詞をつけるという作業を行いました。
おおはたさんの印象って?
もう「とてもいい人!」今回歌詞が出来上がった段階でおおはたさんに投げてみて、ここの部分はこうしたほうが良いんじゃない?ってサラッと言ってくださって、ものすごくやりやすかったです。“夜空のうた”のレコーディングでも、おおはたさんがボソッとおっしゃることがおもしろくて。みんなドドッと笑って、そのままブースに入って録ったらすごくいい勢いの演奏が録れたりして。ほのぼのしているんだけど、みんなをうまく盛り上げていく感じがすごいなぁと思いました。彼が提案するアイデアって何を言ってるのかよくわかんなかったりするんです。例えば〈ジミヘンがアジア・ツアーに出て、帰りの頃みたいに〉とか(笑)。でもみんなは〈そうかそうか〉って感じで受け止めてるんですよ(笑)。で、録り終えたらそのとおりになっていて、みんなで〈お~!〉って盛り上がっている。この人たちはいったい何をやってるんだろう?って、傍から見ていて思ってました。
それは独特過ぎるなぁ。TRI4THとのセッションはいかがでしたか?
“台所オーケストラ”のアレンジでラッパが欲しいとリクエストを出したんです。で、リコーダーの黒川紗恵子さんをつうじて紹介してもらったんです。スタジオで音を出したときが、初めまして、だったんですが、皆さん、気さくなお兄さんたちでしたね。皆さん、こんな曲聴いたことない!って喜んでくれました。実はそれまでTRI4THのことは存じ上げなかったんですけど、こないだラジオを聴いていたら彼らの曲が流れてきて、おおっ!?と思い、ネットで調べてみたら、やたらとクールな感じの彼らが現れて。いやいやいや、めちゃくちゃ気さくだったじゃん!って思って(笑)。ギャップがあってビックリしたんですよ。
今回のレコーディングで苦労した曲はありましたか? 
数日間、喉の調子が悪くて思うように唄えないことがありましたね。この日に5曲録らなければいけないのにぜんぜん歌えなくて。主人に子供を幼稚園に迎えに行ったりしてもらいながらレコーディングしているので、録れなかったからまた明日、っていうわけにはいかないんです。こんな歌い込んできた曲なのにうまく録れないなんてどうしよう、と焦っていたら、笹子さんやスタジオの平野さんは〈あと何日かあるから平気だよ。酒が飲み足りねぇ!〉って励ましてくれて。とにかく子供がいてレコーディングをすることが初めてだったから、ペースが掴みにくかった。結局歌入れの日を追加して事なきを得たんですが、すごく緊張状態でスタジオに行ってことは確かでした。でもいつもの生活では夜の9、10時までスタジオに居られるってことなんてないので、自由だ!ってひたすらニヤニヤしてましたね(笑)。すごくいいスピーカーからおおはたさんのすごくいい演奏が流れていたりするのをうしろに立って聴いていたりすると、なんて幸せなんだ、って思えて。
お母さんからアーティスト、NUUに戻る場所だったわけですね。
そうなんですよ。私すごい楽しい!って噛みしめていました。そうやって自由を満喫して帰るから、家でもすごくハッピーなんですよ。振れ幅が大きくなる分、どちらにいるときも楽しさが大きくなるんです。
ひとつ訊きたいんですが、このご時世、シンガーであることの意義/意味を考えることってありますか?
CDを制作することに関しては浦島太郎状態だったし、これを出してちゃんと売れるんだろうか?って不安があったのは正直なところ。でも、ライヴ会場で〈私、人生で初めてCDを買うのってこれが初めてです〉って言われたことが何回もあるんですよ。だからもうそれは関係ないなと。ライヴに来てくださって、あの曲はどのCDに入ってるんですか?って訊ねてくれる人に向けて作ることにしようと。その人の顔をしっかり見ながら手渡していこうと。歌い続けていて、曲が自然と出てきてしまう。それをCDに残すというシンプルな行為。CDにする意味はそれだけです。でも、このご時世、音楽ってすごく大事なものだとつくづく感じます。ライヴに来られる人にお子さんがいらっしゃる方が多いからよく話すんだけど“せんたくものは幸せの象徴だ”を聴いて、生きているから汚れるんだ!ってことに気づき、日常がすごく尊く思えるようになったって。日常で何気なくやっている行為がしあわせだと思える。そういうことを気づかせてくれる曲ってめちゃくちゃすごい!って思うんです。日常の何でもない出来事が〈これっていいかも〉って思えるようになれる。そこを気づかせることってどれだけすごいことをしているんだろうって。
本当にそのとおりだと思います。
父親が亡くなったときに思ったんですけど、彼が来ていた服ってタンスからいっさい出されることがなくなるんです。一方、娘の布おむつはひたすら洗濯機を回さなきゃいけない。そういう事実を先に自分の作った曲が教えてくれるんです。曲たちのほうが人生の目次になっていて、やっと経験が追いつく頃、唄いながら、本当だ!って驚くことになる。そういうことが数々起きましたね。“しあわせ”も原発事故の前に書いた曲ですが、自分にとってのしあわせとは何かって、あの日以来、曲が問いかけてくるようになって。
エンディングに置かれた“しあわせ”の問いかけが、オープニングの“うまれてきたから”に向けて行われている気がしてならなかったんです。曲の流れという面でも、お終いから始まりへとスムーズにリピートできるんですよね。そういった意味で、曲構成が素晴らしいなと思いました。ここにもまた本作の〈円環〉というテーマが見えてくるし。
それは良かったです。そうそう、さっき話しそびれたんですが“しあわせ”でピアノを弾いてくれている林正樹さんも初めていっしょにやらせてもらったんです。すごくいい人だったな。これまで夏秋文彦さんとずっといっしょにやってきたんですけど、今回は別のピアニストと組んでみたいと思ったんです。夏秋さんとは8年間いっしょにツアーを回ってきたりしてきたので、離れることは大きい覚悟が必要だったんですけど、やらねば!という気持ちのほうが大きくて、別れることでまた新しい出会いがあるんだと考えて。笹子さんに誰か素晴らしいピアニストはいないですかね?って訊いたら〈日本一の世界一がいる〉って林さんを教えてもらったんです。“貝と花”は歌といっしょに録ったんですが、ポロンと音を奏でた瞬間に、好き~!!って思った。ホントに感動したんです。彼のピアノが私にはこういう唄い方もできる、と教えてくれた。新しい出会いは新しい発見を促してくれるとよくわかったし、別れというのはネガティヴなことばかりじゃない、とミュージシャンとして実感しました。
クリエイターにとって、出会いと別れそのものがクリエイティヴな行為ですもんね。
そう思いました。“貝と花”をライヴでやると最前列で号泣している男性がいたりするんですよ。
わかるなぁ(笑)。特に夜更けは特にヤバイ。男性のリスナーにはそれは危険行為だと忠告したいですね。ほかと比べるとこの曲が持つ翳りのコントラストが際立つから、アルバムのなかで聴くととにかくグッときてしまう。
そうか。でもこの曲も他の曲も等しく存在しているし、同じく並んでいることが自分のなかでは自然なんですけどね。
唐突ですが、NUUにとっての理想の人生の形ってどんなものですか?
私、デビュー当時の21、2歳の頃に〈将来の夢は?〉って訊かれて、孫を膝に乗せてスティーヴィー・ワンダーを唄って聴かせること、って言ってたんです。でも、子供を産んでから、それってものすごく壮大な夢だと思うようになった。まず子供を授かるというミラクルな出来事があり、そこから私が生き、娘も生きて、彼女が誰かと出会い、そして子供が生まれる。もう奇跡の連続としか言いようがないですよね。私の大学時代の友だちに、二十歳ちょっと過ぎで亡くなった子がいるんです。それはもうどうしようもなくショックでした。
亡くなった友人のお母さんとはいまだに付き合いがあるんですけど、私が親になってみて、お子さんを無くした母親である彼女がいましっかりと生きていること、それ自体がすごいことだと思える。自分が親の立場になって、娘が亡くなるという想像がもう一歩踏み込んだものになったから。そんな想像すらぜんぜんできないアフロヘアーの小娘だった私がですよ、「孫を膝に乗せてスティーヴィー・ワンダーでも唄ってみたいですねぇ~」って言ってたことを思うともう……。それが実現することがどれほど大変なことか。どれだけしあわせなことかわかるのか? お前、なめるなよ!って言いたいぐらいですよ(笑)。
(笑)。
日常をコツコツと積み重ねていった人生の最後、孫を膝に乗せて歌うようなことができたらそれは奇跡だと思う。いや、それが最後になるかどうかわかんないですけど(笑)、その夢の壮大さが最近いっそう私に迫ってきてるんです(笑)。とにかくいまを生きるってことですね。その大切さを娘たちが日々教えてくれている。今日作った夕飯のまずさに肩を落とし、明日こそがんばろう、って心に誓い、次の朝は早く起きて一生懸命に鰹節をかく。そして夜が来て、今日も地味だったなぁと振り返りつつ、映画を夜遅くまで観てしまう。映画のなかの美しい恋を観ながら、現実を振り返って嘆く。そして寝不足で目を覚まし、だりぃ~とぶつくさ言いながら超適当な弁当を作る。そういう繰り返しのなかからやがて曲が生まれてくる。とにかく日常の機微を味わい尽くすことしかないなあと思うんです。
その先にしか夢は待ってないですもんね。
そうなんですよ。ライヴを続けていくこともそう。小さい場所、大きい場所に関係なく、ひたすら歌を唄い続けていけることこそ夢。それを続けられることが理想の人生ですね。そしていろんな人と出会えることもまた夢につながる。いろんな人がいろんな場所でいろんな生き方をしていて、みんな素敵なんですよね。もっといろんな人と出会いたい。それに尽きますね。
『うまれてきたから』には誰もが持ちうる理想の人生のヒントがいっぱい散りばめられていると思う。
そういうふうに受け止めてもらえたら最高ですね。ライヴに来て下さる年配のお客さんが“せんたくものは幸せの象徴だ”を聴いて、自分のやってきたことが報われた気がするとおっしゃっていて。人生の諸先輩方に感動していただけるってこのうえない喜びがあります。あなた方が洗濯してくれたおかげで私たちの今日があるんです、って言いたいぐらい。主婦業ってなかなか人から評価されづらいし、やっていることのすごさを自分自身が実感することもなかなかしづらい。誰かから感謝されるより、自分が実感を持てないことのほうがつらいと思う。でも、あなたがやっているおかげで生活が動いているんだ、って気づかせることができたならこんなに嬉しいことはない。
そんな気持ちをこのアルバムは優しく問いかけている。
はい。生まれてきたから、ちゃんと生きていきたいな、って思います。
インタビュー:桑原シロー